体外受精など高度不妊治療は、ひと昔前までは数百万円かかることがある高額な自費治療でした。しかし令和2年度(2022年)より保険適用が始まりました。
健康保険に加盟していれば、既定の範囲内なら体外受精でも3割負担で治療を受けることができます。
以前は富裕層や資金援助がなければ難しかった高度不妊治療の門戸が一般にも開放された、と喜びの声が上がりました。
しかし現状でも高価な治療であることに変わりはありません。
・もともとの治療費が高く、3割負担でもそれなりの額になる
・自治体の助成金がなくなり、低所得世帯はむしろ負担が増えたケースもある
・補助治療、不育症治療は自費のまま(2025年1月現在)
保険適用で門戸が開いたのは事実ですが、現在もそれなりに予算を準備しておくべきでしょう。
原因1・もともとの治療費が高い
国民皆保険制度がある日本で健康に暮らしていると理解しにくいですが、医療費は実質数百万円以上かかることは珍しくありません。日本では、これらの大半を保険でカバーされているので実感がないだけです。
アメリカでは医療費がかさんで破産するケースが多々見られますが、アメリカの場合は(費用負担は、加盟する保険会社により異なりますが)全額自費になることが多いのが原因です。
日本では利用者の負担が極端に低いだけで、実際の費用はアメリカと大差ありません。
最先端の医療は多額の費用が発生します。施術者(体外受精の場合は培養士)の高度な技術力、安定して胚を育てる環境、薬の製造や流通など、何重にも費用がかさむからです。(海外から輸入される医薬品も多数あります)
人件費も上がっているため、適正な費用でも値上がりは止まりません。専門医の育成も多額の費用と時間が必要です。
補助治療、不育症治療は自費のまま
現在保険適用されるのは、体外受精の基礎的な治療だけです。
体外受精は標準治療の範囲内で行うよりも、適正なエビデンス(科学的根拠)のある補助治療を併用するほうが妊娠率は上がります。
たとえば、シート療法(SEET法)という補助治療があります。体外で育てた胚をいきなり子宮に戻すと受胎率が低いですが、移植前のタイミングで育てていた胚の培養液を子宮に注入することで、子宮側に受胎する準備を促す補助治療です。
2025年1月現在、シート療法は「先端医療」というカテゴリーの治療法で、全額自費になります。(医療費控除の対象にはなります)先端医療に属する補助治療は多くの種類があります。
補助治療をあれもこれもと導入すると数十万円になることも珍しくありません。保険治療の導入前よりも高額になるケースもあります。
自治体の補助金打ち切り
保険適用前は、各自治体や都道府県から体外受精の費用が助成されました。(助成額は自治体によります)
体外受精の保険適用に合わせ、自治体の補助金は打ち切られました。
当時の助成金は、一定以上の所得がある世帯は支給されませんでした。支給対象外だった高所得世帯は、保険適用で体外受精の費用は大きく下がりました。
しかし補助金支給の世帯にとっては、補助金の額のほうが保険適用額よりも高いケースがありました。所得が低い世帯にとっては、保険適用でかえって金銭的負担が増えることがあります。
どうやって対策する?補助治療は最低限に
まずは、お住いの自治体で助成がないか確認しましょう。
自治体(または都道府県)によっては補助治療や不育症治療などに助成金を出すところもあります。中には一般不妊治療(人工授精やタイミング法など)にも助成する自治体もあります。
しかし、補助の範囲や助成額は自治体や都道府県により大幅に変わります。ぜひ、「お住いの自治体名+不妊治療助成」で検索して、当てはまる項目があるか確認しましょう。
もし引っ越しを検討されているなら、補助が厚い自治体に引っ越すのも良いでしょう。
ただし引っ越し後1年以上など、規制がある自治体もあります。助成対象資格をよく確認してから検討しましょう。
なお、ほぼすべての自治体では女性の年齢制限と、助成回数があります。引っ越ししても助成回数はリセットされません。
補助治療は必要最低限に留めるのも、費用を抑えるためには必要不可欠です。
確かなエビデンスがある治療か確認して、必要不可欠な範囲内で納めましょう。
先端医療ではまだデータが揃わず、効果が未知数なものは少なくありません。
日本の医療は「高額だから効果が高い」とは限りません。むしろ高額な治療ほどエビデンスが低く、効果がないことは珍しくありません。
エビデンスは英語検索になりますが、できればPubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/)などで確認することをおすすめします。
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