ある日突然妊娠するよりも、妊活を経て計画的に妊娠するほうが、より赤ちゃんを守ることができます。
妊活中から十分な量の葉酸を摂取する、麻疹の抗体を付けるために風疹・麻疹ワクチンを接種するなど、妊活中しかできない予防法があります。
では、妊娠した後に接種したほうが良いワクチンはあるのでしょうか。
お母さんを感染症から守るだけでなく、生まれてくる赤ちゃんにも抗体を届けることができる「母子免疫ワクチン」があります。赤ちゃんは生まれた直後から感染症にさらされますが、母子免疫によって一定期間守られることが分かっています。
ワクチンは強い抗体(免疫)が付きますが副反応もあります。説明書をしっかり読み込み、メリットとリスクを把握して決めましょう。定期健診で産婦人科の医師に相談することもおすすめします。
お母さんに接種するとお腹の赤ちゃんに抗体をプレゼントできる「母子免疫ワクチン」
ワクチンを接種すると抗体が付き、感染症に罹りにくくなります。たとえ感染しても重症化を防ぐ効果もあり、健康を守るための大きな助けになります。
母子免疫ワクチンとは、お母さんがワクチン接種することで赤ちゃんにも抗体を分けることができるワクチンのことです。
お母さんにワクチンを接種すると、お母さんが造った抗体が胎盤を通じてお腹の赤ちゃんにも届きます。生後しばらくの間抗体を持つことができます。
赤ちゃんは生まれた直後から、さまざまな感染症リスクに晒されます。新生児は感染症に対して無防備で、大人に比べると感染、重症化のリスクが高くなります。
母子免疫ワクチンを摂取すると生まれつき赤ちゃんが抗体を持つため、重症化リスクを大きく下げることができます。
RSウイルスの重症化リスクを減らします
母子免疫で、どのような感染症を防げるのでしょうか。代表的なものはRSウイルス感染症、百日咳です。
RSウイルスは毎年流行するありふれた感染症で、2歳までにほぼ100%感染します。以前は冬に流行していましたが、近年は春~夏に流行する傾向があります。
大人が感染すれば風邪程度の症状で済みますが、新生児や小児が感染すると肺炎や気管支炎などを引き起こします。2歳までのお子さんが感染すると年間約3マン人、4人に1人は入院するほど重症化します。
さらに回復しても喘息などの後遺症を残すことがあるため、無事に回復してもQOL(生活の質)が下がります。RSウイルス感染症は赤ちゃんにとって「ただの風邪」ではありません。
赤ちゃんに抗体を渡すためには、妊娠24週から36週までに1回接種します。
接種すると赤ちゃんの気管支炎や肺炎など(下気道疾患)のリスクを生後90日で57.1%、生後180日で51.3%減らします。ほぼ半減させるのは大きな安心材料になるでしょう。
副作用が不安になるかもしれませんが、接種しても早産リスク、低体重児リスクは関連がないことが分かっています。
100日間も咳が続く?百日咳の重症化リスクも下げます
大人が感染しても辛い百日咳ですが、新生児や乳児が感染すると重症化し、入院することがあります。
百日咳に感染するとコンコンコンと短い咳が続き、その後に空気を吸う症状が続きます。赤ちゃんは咳の後に空気を吸うことができず、窒息などを起こし突然亡くなることがあります。肺炎、脳炎を発症し、命を落とすこともあります。
百日咳は百日咳菌に感染して発症します。細菌なので抗生剤(マクロライド系抗菌薬)で治療はできますが、近年はマクロライド系抗菌薬が効かない耐性菌(マクロライド耐性百日咳菌)が増えて社会問題になっています。
特に赤ちゃんは治療薬が限られているため、感染や重症化を防ぐワクチンによる抗体を得ることが大切です。
母子免疫で赤ちゃんに抗体ができれば、生後2か月で6割以上の発症を防ぎ、7割以上の重症化を減らすことが分かっています。
生後2か月から7か月の間に、百日咳を含めた5種混合ワクチン(DPT-IPV Hib)を接種できます。2回以上接種することで強い抗体が得られますが、それまでの間は無防備になります。母子免疫があればこの間の空白期間を作らず、常に一定の抗体を持つことができます。
百日咳は家族間の感染率が高く、特にお兄ちゃん、お姉ちゃんからの感染が38%もあります。父母からの感染率も高いため(父19%、母14%)できれば家族全員で百日咳ワクチンを接種することが最大の防御になります。
「コクーン戦略」と呼ばれる戦略で、繭のように周囲を囲み、感染弱者を守る方法です。
接種による副作用は非常にまれです。ゼロではありませんが、生まれたばかりの赤ちゃんが百日咳に感染して大変な目に遭うリスクと比較して、ぜひ産婦人科の医師と相談して決めて頂きたいと思います。
母子免疫による百日咳予防は海外で実用化されていますが、2025年8月現在、国としてはまだ導入していません。日本産科婦人科学会は導入に向けて活動をしていますが、現在のところ自費接種になります。
たとえ自費であっても予防効果は高いので、妊活中の今のうちから情報を集めることをおすすめします。
参考サイト
日本産婦人科学会 妊婦に対する新型コロナウイルスワクチン接種について
国立健康危機管理研究機構 海外の妊婦への百日咳含有ワクチン接種に関する情報
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