体外受精では、卵胞を採取して受精(または顕微授精)させて育て、子宮に移植する治療法です。それでは、採取した卵子を管理するのは誰でしょうか。
小規模のクリニックでは医師が行うことがありますが、患者数が多い不妊治療の医療機関では、受精卵を管理する「胚培養士」が担います。
胚培養士は不妊治療ではあまり目立たない存在かもしれませんが、腕前で治療成績が左右されると言われるほど重要な役目を担います。
ここでは高度不妊治療の立役者「胚培養士」について解説します
胚培養士は卵子を受精し、胚を育てる専門職
胚培養士とは、医師が採卵した卵子を預かり、精子と受精させて子宮に戻すまで成長させる役割があります。
ごく細い注射針を卵子に刺し、動かない精子を授精させる「顕微授精」を行うなど、繊細な作業が求められます。
胚培養士の職務は、患者さんから預かった卵子と精子を受精(または授精)させ、子宮に戻すまで厳重に管理して育つ環境を整えることです。
受精卵が育つ環境(培養エリア・インキュベーター)の厳重な清掃など、周辺環境を整えるのも胚培養士の仕事です。
胚の管理だけではなく、治療成績のデータ化や論文にまとめるなど、学術的な作業をすることもあります。認定資格によっては学術誌への論文掲載など、医師に匹敵する条件を満たさないといけないこともあります。
胚培養士は2025年時点では、医師や看護師のような国家資格はありません。しかし日本卵子学会と日本臨床エンブリオロジスト学会が行う認定資格はあり、多くの医療機関ではこれらの資格を持つ胚培養士が活動しています。
(※エンブリオロジストEmbryologistは胚培養士の英名)
日本卵子学会は知識と倫理、日本臨床エンブリオロジスト学会は実践を重視する傾向があります。どちらも学会に所属し、一定の学歴(大学以上)、経験、研修、学会参加などが必要です。どちらも資格は5年で更新になるため、常に学び続けなければなりません。
以前は別々の資格でしたが、現在は2学会で協議の上、統一した「生殖補助医療胚培養士」という資格になりました。(資格要件などは現在も調整中)
2025年現在は資格がなくても胚培養士の仕事はできますが、多くの医療機関では胚培養士になるための教育を続けています。
残念ながら、現時点では医療機関ごとに技術の格差があることは否定できません。培養環境やスタッフの経験によって、治療の成績に差が出ることもあります。将来的には技術を均一にするために国家資格に格上げするための働きかけが行われていますが、現時点では治療成績などを見て治療を受ける医療機関を判断すべきでしょう。
胚培養士が多い医療機関は能力が安定している可能性
では、医療機関を選ぶ際には胚培養士のどこを確認すれば良いのでしょうか。
胚培養士について情報公開している医療機関は少ないため、非公開の場合はあらかじめメールや説明会などで尋ねると良いでしょう。
・現在活動している胚培養士の人数
・胚培養士をどのように育成しているのか
・認定資格保持者の有無
医療機関の規模によりますが、胚培養士が多数在籍しているとチームとして協力できるため、安定した体制が整いやすい傾向があります。技術が安定する可能性があるので、胚培養士の人数や育成方針は確認することをおすすめします。
これに併せて医療機関が公開する治療成績を確認しましょう。
胚培養士は医療機関内での育成が基本
現在、胚培養士は勤務する医療機関で訓練と研鑽を重ね、技術を維持向上させています。新人の胚培養士は(提供者の許可を得て)不要になった卵子や精子を使い訓練を続け、一定のレベルに達するまで現場に出ることはできないとされています。
胚培養士の育成は現時点では、医療機関で行われることが基本です。それに加えて学会の研修など、他の場所で知識や技術を学びます。
胚培養士に求められるのは繊細な作業と集中力ですが、取り違えを必ず防ぐ注意力も求められます。
最もあってはならない事故は卵子や精子の取り違えですが、複数人態勢で確実に卵子や精子を回収し、バーコードなどで厳重に管理します。採卵を受ける患者さんは腕にバーコード付きのバンドを付け、手術前に何度も点呼やバーコードの読み込みで念入りに確認します。
取り違えを防ぐ仕組みは二重、三重に組んでいますが、最後は胚培養士の意識が欠かせません。
近年は胚のタイムラプス映像を監視するモニターやAIを活用した最新鋭の顕微鏡など、最新技術を駆使した環境が整った医療機関もあります。これらの設備が整った医療機関は、より高度な治療が期待できます。
医療機関によりますが、患者さんが直接、胚培養士と接触することは滅多にありません。
直接関わることはできないことが多いですが、胚培養士は高度不妊治療を担う最前線の人々です。ぜひ病院選びの際は胚培養士もチェックしてみましょう。
参考サイト
Oak Clinic 前編 「胚培養士に聞く、体外受精、顕微授精」
コメント