2024年現在、厚生労働省に認可された医療用漢方製剤(保険適用されている漢方薬)は約150種類あります。
漢方薬はマイルドで副作用がないと考える方もいますが、漢方薬は医薬品です。ほかの医薬品と同様に、副作用を起こすリスクがあります。
中には命に関わるような副作用を起こすこともあるので、少しでも気になる症状が出たらすぐに服用を中断し、医師に相談しましょう。特に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)改善に使うことがある柴苓湯(さいれいとう)は、薬の飲み合わせが悪いと、まれに命を落とすことがあります。
排卵障害の治療で柴苓湯を併用することもあります
漢方薬は、生薬と呼ばれる植物の茎や根、牡蠣殻など動物性の原料を加工したものを数種類以上組み合わせ、薬効を高める医薬品です。
生薬が1つだけでは効果が限られていますが、数種類以上合わせることで薬効が何倍にも高めることができます。
不妊治療は原則、ホルモン剤やステロイド剤、排卵誘発剤、手術などが主な治療法です。しかし治療の一環で漢方薬を使う医療機関もあります。(逆に、かえって体のバランスを崩すという理由で禁止する医療機関もあります)
不妊治療で最も厄介な症状のひとつが排卵障害です。妊娠するためには精子と卵子が揃うのが大前提ですが、ストレスや絶食など危険なダイエット、早期閉経などさまざまな理由で月経が止まり、排卵障害に陥ることは珍しくありません。
排卵障害も様々な症状がありますが、卵巣内の卵子予備軍が多すぎて卵子が育たない多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は治療法が限られ、改善が難しい疾患のひとつです。
女性も少量の男性ホルモンは分泌されますが、男性ホルモン量が多すぎるとPCOSになりやすいと考えられています。糖尿病(予備軍を含む)、肥満、ストレスもPCOSを悪化させる要因です。
軽度のPCOSなら排卵誘発剤で排卵することもありますが、それでも改善しない場合は排卵誘発剤に柴苓湯を加えることがあります。
PCOSにはプレドニンというステロイド剤を使うことがありますが、柴苓湯はステロイドホルモンに近い作用があると言われています。
柴苓湯は、小柴胡湯と五苓散という2種類の漢方薬を合わせた薬です。五苓散は利尿作用があり、体内の水分代謝を改善します。小柴胡湯はステロイドホルモンに似た成分で、炎症を抑える作用があります。
東洋医学で「水滞(すいたい)」と呼ばれる症状で、柴苓湯に含まれる五苓散には、水滞を改善する効果があるとされています。
漢方医学では気、血、水の3つのエネルギーがあると考え、これらが少ない、適量あっても滞ると病気になるとされています。水滞は「水の滞り」を意味し、冷えやむくみなど体内の水分バランスが崩れた状態を指します。
この状態が続くと、ホルモンバランスや血流の悪化を招くと言われ、排卵障害の一因になると考えられています。
柴苓湯には利水作用で余分な水を排出し、体を温める作用があります。血流を促進し、ホルモンバランスを整える効果が期待されます。
インターフェロン製剤+小柴胡湯(柴苓湯の一部)の併用で死亡事故も
ステロイドホルモンは副作用が強いので、これだけ聞くと柴苓湯を試したくなるかもしれません。
しかし、あなたがウイルス性肝炎の治療中なら絶対に使用してはいけません。
ウイルス性肝炎の治療に使うインターフェロン製剤を服用している方が小柴胡湯を服用すると、肺炎(間質性肺炎)を起こして死亡することがあります。
小柴胡湯は市販薬でも販売されています。安全性が高い市販薬で死亡事故が起きた珍しい事故で、発覚当時は大変な問題になりました。
柴苓湯には小柴胡湯の生薬がそのまま含まれているため、同様のリスクがあります。肝炎がある方は必ず、不妊治療を行う病院をはじめ、すべての医療機関に肝炎があることを報告しましょう。(マイナンバーカードで医療情報を共有すると、自動的に伝わるのでより便利です)
間質性肺炎は発熱、せき、呼吸困難、肺の異音(捻髪音(ねんぱつおん)と呼ばれる、吸気にパチパチ、ベリベリと髪をこすり合わせたような音)などを起こします。たとえ肝炎がなくても、これらの症状が出たらすぐに処方された病院に問い合わせてください。
少しでも気になる副作用があれば、すぐに医療機関へ相談を
漢方薬は体内の調整を行い、体質改善する安全で副作用がない薬、と考えるのは大きな間違いです。
漢方薬には体質改善を促す作用もありますが、即効性があるものもあります。原料が生薬というだけで、中身は化学合成された一般薬とあまり変わりません。
一方で、漢方薬は一般薬に比べると効果が限定的で、はっきり表れないこともあります。そのため漢方を禁止する医療機関もあります。
原則、治療は医療機関に従いましょう。漢方薬を試したい時はリクエストすれば許可されることが多いですが、薬である以上はそれなりに効能もリスクもあることは、頭の片隅に留めておきましょう。
参考サイト
日経メディカル インターフェロン製剤(肝炎などの治療薬)の解説
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