ChatGPTなどAIは、この数年で一気に普及しました。日常的に活用する方もいるのではないでしょうか。
AIは医療分野にも普及しつつあります。2025年8月現在では業務改善など事務に使われていることが多いですが、独自で学習したプログラムを組み込んで優良な精子を選ぶ、という手法が開発されつつあります。
海外では成功例もあり、今後は日本でも不妊治療の医療サポートで大活躍するでしょう。
今回は重度の男性不妊を解決した世界初の実例と、現場で導入されている最新の取り組みについて紹介します。
無精子症の精液から優良な精子を探す…ブリティッシュコロンビア大学の「STAR法」
男性不妊の代表的な症状は「無精子症」です。射精はできても、精液の中に精子がほとんどいない状態です。
無精子症の治療は難しく、重度のケースでは手術で精巣にメスを入れ、精子の元を取り出すこともあります。しかしそれでも精子が見つからないことは珍しくありません。
現在、優良な精子や胚は胚培養士が目視で確認しています。胚培養士は採卵した卵子と精子を受精させ、子宮内膜に着床する胚盤胞まで育てる仕事を担います。しかし職人技が求められるため精度にばらつきがあり、大きな負担になることが課題でした。
そこで、ブリティッシュコロンビア大学では特殊な学習を行ったプログラムをAIに組み込み、無精子症の男性が射精して得られた精液からわずかにある正常な精子を特定することに成功しました。これがAIによる画像解析技術です。
その方法はアメリカらしい物量作戦で、顕微鏡に高速カメラと高解像度画像技術を組み合わせ、1時間以内に800万枚を超える画像を撮影します。その画像1枚1枚からAIが正常な精子を探し出し、速やかに培養へ利用する液滴に分離・回収することに成功しました。
この新しい技術「STAR法」は膨大なデータを解析するため、人間の目視より優れた効果が期待できます。その結果、18年間も不妊に悩まされていた夫婦が妊娠に至ることができました。
STAR法が優れているのは手術が不要な点です。男性不妊では精巣を手術して精子の元を採取することがありますが、精巣にダメージを与えるなど副作用も大きなことが課題でした。しかしSTAR法なら通常の男性と同様の処置で済み、身体へのダメージはほぼありません。
残念ながら2025年8月現在ではコロンビア大学不妊治療センターでしか受けらない治療です。しかし今後は他の不妊治療センターと連携をすることが公表されています。エビデンスが整えば、近い将来日本でも行われるかもしれません。
精子選びをAIがサポート。日本企業のAI精子判別技術
日本でも光学機器メーカーのオリンパスと東京慈恵会医科大学が協力し、精子の運動性や形状をAIに判別させる技術を開発中です。
顕微授精に欠かせない精子を得るためには、胚培養士の高い技術と判別能力が欠かせません。
精子の判別をAIで補うことで妊娠確率を上げ、胚培養士の作業を一部AIに補助させ、負担を下げることが期待されています。
STAR法に似た手法だと想定されますが、こちらは「精子の運動性」「形態」をAIで自動判別する技術です。
まだ現時点で実用化されていませんが、精子の軌道をリアルタイムで表示して精子の運動性能をAIで算出する技術、精子の形を判別する技術は確立しています。精子の形が良いものと、そうでないものを色分けして表示します。胚培養士が選別しやすいようにAIがアシストします。
まだ開発中ですが、将来的にはDNAが損傷した精子を判別するAIを開発し、これらのAIを搭載した顕微授精に使う顕微鏡の実用化を目指しています。これが実用化されたら、男性不妊が原因の不妊治療(顕微授精)の精度が上がり、妊娠率の向上が期待できます。
男性が原因の不妊は40~50%と言われ、男性不妊の8割は精子が造れない・造りにくい「造成機能障害」が原因です。AIの活用でわずかな優良な精子も見逃さず、一人でも多くの方が妊娠できることが期待されています。
業務改善にAIを活用し、患者さんに寄りそう医療を
日本の医療機関でもAIが積極的に活用され始めています。もちろん医療行為への活用も期待されていますが、現状ではデータの整理、記録業務などをAIが代行することが多いようです。
医師や看護師、スタッフはただ医療行為を行うだけではありません。今までの治療の記録や数値化、整理など雑務も多く、業務の負担になっています。
AIにそれらを肩代わりさせることで、より医療行為に集中しやすくなります。間接的ではありますが、AIに雑務を任せることで、医師や看護師はより患者さんに時間を当てることができ、きめ細かい治療を行うことができます。
これからは直接的にも、間接的にもAIが不妊治療で活用される機会が増えるでしょう。今まで妊娠が難しかったケースでも妊娠の可能性が上がる、希望のある未来はもう目前に迫っています。
参考サイト
京野アートクリニック高輪 ―不妊治療×AIコラム― 培養士と患者さんへの向き合い方や医療DXとChat GPT導入背景と実際
ライブドアニュース 18年間妊活がうまくいかなかった夫婦がAIの力で妊娠
日経クロステック AIが不妊治療をサポート、精子の運動性・形態に加えてDNA損傷まで判別へ
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