40代でも妊娠はできるのでしょうか。
結論から言えば、妊娠することは十分ありえます。しかし可能性は20代、30代に比べて格段に下がります。
さらに厳しいことに、妊娠はできても出産に至らない…流産する確率は格段に上昇します。流産は女性の年齢に関係なく一定確率で起きてしまいますが、40代になるとその確率が大きく上昇します。
しかし、40代で妊娠、出産する女性は決して少なくないのも、また事実です。
「状況は厳しいが、可能性はゼロではない」
という事実を受け止めた上で、ご検討頂きたいと思います。
40代の妊娠率は体外受精でも低い。しかし…
日本は世界一と言って良いほど、不妊治療の技術が高い国です。最先端技術は米国がさらに上回りますが、誰でも高度な医療にアクセスできる、という点では間違いなく世界一です。
そのためか医療に過度な期待を寄せる方は少なくありません。
しかし残念ながら、2025年時点では不妊の最大原因「卵子の老化」を治療する方法はありません。
女性の卵子は胎児の時代に一生ぶんが造られ、この在庫を使います。常に新しく生産される男性の精子とは、この点が全く異なります。
40歳の女性の卵子は41歳、41歳の卵子は42歳になり、細胞分裂にエラーが出やすくなることが、妊娠率の低下の要因です。
体外受精を行うと、一度に多くの卵子を採取して一斉に育てることができます(高刺激法の場合)。「数射てば当たる」方式なので妊娠率は自然妊娠よりも上がりますが、それでも妊娠率は高くありません。
日本産科婦人科学会の統計では、体外受精で「出産」できる確率(生産率)は、40歳で約9%、42歳で約5%となります。さらに45歳になると1%未満に低下します。35歳頃までは20〜30%程度あることを考慮すると、確率が大きく下がることが分かります。
注意したいのは流産率です。流産はどの世代でも一定確率で発生しますが、年齢とともに上昇します。40歳では約34%、45歳では60%に達すると報告されています。30代前半では流産率が10〜15%程度なことに比べると、非常に高い確率です。
40代は、たとえ妊娠できても流産になる可能性が、他の世代より高いのです。
しかし、40代であっても元気な子を出産し、成長するケースがあることもまた事実です。厚生労働省の統計では、40歳から44歳までの女性の出生数は平成8年で12,526人、平成10年で13,234人もいました。45歳から49歳までの女性でも平成8年は397人、平成10年は459人の子が産まれています。
35歳以上の高齢出産は年々増加傾向にあり、今後もこの傾向は続くでしょう。
母体リスクを考慮し、健康な身体を維持しましょう
女性は妊娠するとホルモンバランスが大きく変化し、妊娠に備えた身体になります。妊娠、出産には妊娠に耐えられる健康な母体が欠かせません。
しかし、人は年を重ねると様々な病気のリスクが上がります。
子宮筋腫や子宮内膜症は、治療をしなければ閉経まで病態が悪化しやすい病気です。これらの病気が悪化すると子宮内膜に着床しにくくなり、妊娠しにくい体質になります。
子宮内膜症などで炎症が起こると卵管や、卵巣から放出された卵子をキャッチする卵管采などが癒着してしまい、卵子を取り込めなくなるリスクが上がります。片手を縛られた上で野球ボールをキャッチするような状態を想像すると、その困難さが分かりやすいかもしれません。
クラミジアなど性感染症に感染すると卵管に炎症を起こし、卵管閉塞になりやすくなります。卵管閉塞は体外受精など高度不妊治療を行えば解決しますが、たとえ体外受精を行ってもほぼ確実に妊娠が望めるのは、若い世代の女性に限られます。
子宮筋腫は筋腫が発生する場所や大きさ、数などでリスクが変わりますが、中には妊娠できても妊娠継続が難しくなることがあります。
妊娠前は健康体でも油断はできません。妊娠後に妊娠高血圧や妊娠糖尿病になるなど、母体に大きなダメージを負う可能性が高くなります。これらの病気はお腹にいる赤ちゃんにも悪影響を与えます。
これらのリスクは、あらかじめ知っておくべきでしょう。
生活習慣病を遠ざけるためにも、普段からバランスの取れた食事、適度な運動、規則正しい睡眠などの習慣を続けましょう。
1周期でも早く不妊治療を
40代の妊娠、出産は統計上厳しいですが、40代の女性から毎年1万人以上の子が産まれているのも事実です。
「人智を尽くし、運を天に任せる」ことが40代の妊活だと覚悟し、1周期でも早く高度不妊治療を行う医療機関で治療を始めることが、妊娠の可能性を上げる唯一の道です。
35歳から妊娠する力は下がりますが、40代になると坂道を転げ落ちるように急激に低下します。
最近は若いうちに卵子を凍結して将来に備える、という方法を取る方もいます。しかし卵子は凍結に弱く、解凍した時に変質するリスクがあることはあまり知られていません。
(受精卵は凍結に強く、適切に保管すればほぼ問題ないとされています)
さらに、保管の問題があります。凍結胚や凍結卵子を保管する施設は予備電源がありますが、災害が多発する現在では停電によるダメージが起こる可能性はあります。大震災や津波などで、施設ごと破壊される可能性もゼロではありません。
可能性は低くてもゼロではない、ただしリスクは高い、という現実とどのように折り合っていくか…どのような決断であっても、この体験は今後の人生に大きな影響を与えるでしょう。
参考サイト
日本生殖医学会 Q22.女性の加齢は不妊症にどんな影響を与えるのですか?
野村総合研究所 令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書
三軒茶屋ウイメンズクリニック 卵子凍結のデメリットは?副作用や合併症のリスクも解説
コメント