薬を飲み慣れていない方にとって、不妊治療で次々と薬を服用するのは不安になると思います。
「毒にも薬にもならない」という諺があるように、薬になる成分は時には毒になります。
現代医学では、メリットがリスクを上回ると判断すれば、薬を使います。正しくメリットとデメリットを知り、リスクを知ることで不安が解消されるでしょう。
薬について不安がある時は遠慮せず、担当の医師にご相談下さい。
口頭で伝えるよりも、メモ書きに「副作用が出た日」「その日や前日に服用した薬」「副作用の症状と期間」を書いて渡すと、より適正な対応が期待できます。
排卵誘発剤「クロミフェン製剤」はメリットとデメリットを見計う必要があります
排卵誘発剤で有名なクロミフェン製剤(クロミッド)は、メリットとリスクどちらも目立つ薬です。
どの薬にもメリット、デメリットはありますが、クロミフェンはそれがはっきりと自覚しやすい傾向があります。
クロミフェン製剤のメリットは
・経口薬でありながら、排卵誘発効果が高い
・卵子の質が上がりやすい
・排卵誘発剤として使用された歴史が長く、メリット、デメリットが広く知られている
・ホルモン剤を使わないので、比較的体の負担が少ない
・月経周期の安定、高温期の安定などの効果がある
・薬価が非常に安い
などがあります。
不妊治療で使う薬は高額なものが多く、今まで病院で支払ったことがないような高額な料金を請求されます。
その中でもクロミフェン製剤は非常に安価で、不妊治療の第一歩に使われることが多い薬です。
しかし、クロミフェン製剤には妊娠を妨げる副作用もあります。
・子宮内膜が薄くなる
・子宮頚管粘液が減る
これらの副作用は、クロミフェンの作用機序で起こるため、ほぼ必ず起こります。
そのため、「クロミフェンは期間を区切って使用する」(最大6周期)というガイドラインがあります。これを超えて連続服用することは、よほどの事情がない限りありません。
クロミフェンの恩恵(排卵など)を受けながら、害(子宮内膜が薄くなるなど)をできるだけ軽減するには、期間を区切って使用することが最適解です。
服用を止めれば、これらの副作用は徐々に改善していきます。
始めはおりものが減ってショックを受けるかもしれませんが、メリットとデメリットを理解すれば不安が軽減するでしょう。
妊娠と直接関係ない副作用もあります。
ごくまれに、目がかすむ、激しい腹痛(卵巣過剰刺激症候群)などの副作用が起こることがあります。この場合はただちに服用を中止し、眼科または治療を受けている病院で再診する必要があります。
クロミフェン製剤は排卵誘発剤なので多胎(双子など)のリスクが4%ほど上がることが統計上分かっています。
日本人は自然妊娠の場合、約1%の割合で双子になりますが、その可能性が4%まで上がります。
双子が産まれるのは大変嬉しいことですが、妊娠リスクが高く出産後も多大な負荷がかかります。多胎はハイリスクのため、出産できる病院も限られます。
もし双子が授かった時は事前に準備を進めておくことも、頭の片隅に置いておきましょう。
「甘草」が含まれる漢方薬は、偽アルドステロン症のリスクが
不妊治療の一環で、漢方薬を服用する方もいると思います。
漢方薬は、薬草(生薬)を組み合わせたもので、科学的に合成する西洋薬よりも自然に近いと言われています。
だから漢方薬は副作用がないと思う方もいますが、それは誤りです。漢方薬にも副作用があり、中には命を落とすケースもあります。
特に、「甘草」という生薬が含まれる漢方薬には「偽アルドステロン症」という副作用が出ることがあります。
副腎という器官からアルドステロンというホルモンが分泌されます。このホルモンは血圧を上げる作用があり、過剰に分泌されると高血圧やむくみ、だるさなどの症状が出ます。
偽アルドステロン症は、このアルドステロンが正常値でありながら、これらの症状が出ます。
その原因は甘草に含まれるグリチルリチン酸で、漢方薬や胃薬などでも発症リスクがあります。
偽アルドステロン症はむくみ、手足のしびれ、こわばりが起こり、徐々に症状が重くなっていくのが特徴です。尿量が減り、まぶたが重く感じることもあります。
悪化すると死亡することもあり、放置すると非常に危険です。
これらの症状が出たら、ただちに服薬を中止して、医師に診てもらいましょう。その際には、使用していた漢方薬も持参しましょう。
甘草は日本で流通する漢方薬の約7割に含まれています。
婦人系の病気に使う加味逍遥散など、身近な漢方薬にも入っている成分です。(当帰芍薬散、桂枝茯苓丸には含まれていません)
漢方薬にも副作用があります。偽アルドステロン症以外でも重篤な副作用が起こることがあるので、違和感があればすぐに服用を中止しましょう。
参考サイト
産婦人科クリニックさくら クロミッド(クロミフェンクエン酸塩) ~排卵誘発剤の効果と副作用~
厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症
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