不妊は女性ばかりが責められることがありますが、男性が原因の不妊症もあります。
WHOの調査では、不妊の原因は男性が48%あると公表しています。(女性65%)
男性不妊の原因は、何らかの原因で精子が造れない、作れても通り道にトラブルがある2種類があります。検査は問診、触診のほか精液検査、超音波検査、血液検査などを行います。
過去の病歴、手術歴などは原因解明のカギになります。
睾丸の大きさや形成異常、周辺の異常
外見から分かりやすいのは、睾丸の大きさや形成異常です。
極端に小さい、柔らかい場合は精液を造る機能が悪化している可能性があります。
睾丸の位置や周辺も、判断の指標になります。
睾丸が体外にあるのは、体温で精子が死滅させないための進化です。精子は熱に弱く、体温で影響を与えるためです。
睾丸が陰嚢内の上にある方や、鼠径部に位置している人(停留睾丸)も、睾丸の温度が上がるリスクが高くなります。
睾丸の上に血管のコブ(精索静脈瘤)がある人も不妊リスクがあります。精索静脈瘤を発症すると温かい血液が睾丸近くに流れるため、陰嚢内の温度が上がってしまいます。
立ってお腹に力を入れると、左側(まれに右側)に血管のコブが浮いたら精索静脈瘤の可能性が高いです。
これらの症状はある程度、自己判断ができます。これらの症状が見られたら、泌尿器科で検査を依頼しましょう。
おたふく風邪など感染症、前立腺炎など疾患
病気や手術の後遺症で、精液が造られなくなることがあります。
有名なのは、おたふく風邪です。第二次性徴の後におたふく風邪(流行性耳下腺炎)に罹患して、睾丸が腫れたことがある男性は、精子を造る能力を失うリスクがあります。
おたふく風邪は耳下腺という耳の下にある場所が腫れあがるのが特徴ですが、精巣炎や卵巣炎を起こすことがあります。精巣が炎症を起こすことで細胞が死んでしまい、精子を造る能力が大幅に減ってしまいます。おたふく風邪には有効な薬はなく、ワクチン接種で予防するのが唯一の防衛方法です。
新型コロナウイルス感染症も男性不妊を引き起こします。細胞はさまざまな酵素を取り込む機構がありますが、新型コロナウイルスはその機構のひとつ、ACE2受容体に取り付いて細胞に侵入します。
ACE2受容体が多く含む場所は血管、呼吸器、消化器、目、脳の一部、生殖器など多く、生殖器で増殖すると精子を造る細胞の元が壊死します。
一定期間で回復するケースもありますが、どの程度の期間がかかるのかは個人差があるようです。
この他にも高熱で睾丸が痛んだ人も、精子を造る能力が低下する可能性があります。
副睾丸炎、前立腺炎に罹患すると、精子が通りにくくなる後遺症が残ることがあります。
他にも、がんの治療で抗がん剤や放射線治療を受けた経験がある場合も、造精能力が失われることがあります。
鼠径ヘルニアなどの手術歴がある
子供のころに鼠径ヘルニア(脱腸)の手術歴がある男性もリスクがあります。
男性の下腹部には鼠径管という穴があり、胎児のころに体内にあった精巣を外に出すための通り道です。通常はその後にふさがりますが、ふさがらずに腹圧などで再び開いてしまうことがあります。
鼠径間の近くには精索という器官があり、手術で傷つけられると不妊リスクがあります。
胎児のころに鼠径管から外に出るはずの睾丸が、体内に留まることがあります。滞留精巣という状態で、出生時の男子100人のうち3人は起こります。生後に睾丸が正しい位置に移動することもあり、生後半年までには100人に1人まで減ります。
正しい位置に移動させるには手術しかありません。停留睾丸の手術を受けた人は、精液所見が悪くなることがあります。特に子供のころに手術を受けた場合は、必ず医師に申告して下さい。
不摂生な生活
男性の生殖能力は日常生活で左右されがちです。
不摂生な食事による栄養の偏り、睡眠不足や不規則な生活は、精子を造る能力を一時的に低下させます。
そのため一度の精液検査で焦るのは良くありません。精子が1個もない場合は別ですが、基準値より若干少ない程度の乏精子症は、体調が悪い時はよく見られます。何度か精液検査を行うことをおすすめします。
特に注意したいのは肥満と喫煙習慣です。肥満は糖尿病など生活習慣病を引き起こし、EDの原因になります。喫煙は血流が悪化し、身体の老化を進めてしまうため、精子の状態が悪くなります。
適度な運動、定期的な時間に寝起きする、ストレスをなるべく発散させてリラックスする習慣を付けるなど、できる範囲で健康的な生活を心がけましょう。
参考サイト
日本生殖医学会「Q5.どんな人が不妊症になりやすいのですか?」
東邦大学医療センター大森病院 男性不妊の検査 診断 治療の手順(方針)
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