「漢方薬は一般的な薬よりも安全」と考える方もいますが、それは正しくありません。
漢方薬も薬の一種で、副作用を起こすことがあります。中には命にかかわる重い症状が出ることがあるので、過信は禁物です。
ここでは代表的な漢方薬の副作用と、その対処法について紹介します。
甘草(カンゾウ)が引き起こす危険な副作用「偽アルドステロン症」
甘草(カンゾウ)は多くの漢方薬に含まれる、ほのかに甘い生薬です。すべての漢方薬の約7割に配合されているので、「漢方薬には甘草が含まれる」と考えても良いでしょう。
(当帰芍薬散、桂枝茯苓丸など、甘草を含まない漢方薬もあります)
東洋医学はもちろん、西洋のハーブ療法や古代の西洋医学にも用いられる、多くの地域で使用されています。
甘草に含まれるグリチルリチン酸は、抗炎症作用や免疫調節作用など、さまざまな薬効があります。炎症を鎮め、身体を潤す、痛みを和らげる、消化器の働きをサポートするなど、多くのはたらきがあります。
漢方では生命エネルギーと考えられている「気」を補い(補気)、生薬同士の薬効を高め、毒性を減らす効果があると考えられています。甘草が含まれる漢方薬が多いのは、このサポート力のためです。
英名ではリコリス(licorice、またはlicorice root)と呼ばれ、甘味料の一種としてよく使われています。砂糖の50倍以上の甘味があり、お菓子やお茶、タバコなどの添加物に使われます。
甘草は長期使用や大量に服用すると、まれに偽アルドステロン症を引き起こします。
血中のカリウムが減り、むくみ、四肢のだるさ、突然の高血圧などの症状が現れます。
悪化すると重症化し、死亡することがあるので、放置は厳禁です。
食品にも含まれている成分なので、お菓子やお茶などは念のため、成分表を確認しましょう。日本の食品には醤油や一部の菓子類に含まれる程度ですが、外国製のお菓子やお茶にはよく添加されています。
これらの症状が出たらただちに漢方薬の服用を中止し、内科を受診して下さい。併せて処方された病院か薬局に相談して下さい。
婦人病に使うことが多い、甘草を含む漢方薬
桃核承気湯・加味逍遙散 など
風邪、花粉症などでよく服用される漢方薬
葛根湯・小青竜湯 ・五虎湯・神秘湯・滋陰至宝湯・桔梗湯(うがい薬) など
胃腸の不調
漢方薬の成分である生薬には、胃や腸にダメージを与えやすいものがあります。
数度の服用で済むなら問題ないですが、体質改善で長期服用する際は注意が必要です。
一般的に「体力がある人向け」(実証)の漢方は効果が強く、消化にエネルギーがいる傾向があります。
実証の方には問題ありませんが、体力がない人(虚証)では消化が難しく、胃腸のトラブルになりやすい傾向があります。
漢方に含まれる生薬の中には、胃腸に負担を与えやすいものがあります。
たとえば婦人薬の代表格、当帰芍薬散の主成分、当帰(トウキ)は腸や胃に負担になることがあり、軽い下痢を引き起こすことがあります。
ふだん便秘で困っている場合は便秘解消になるので悪いことばかりではありませんが、お腹の調子が悪いときはいったん服用を中止しましょう。
あんずの種で血の滞りを改善する桃仁(トウニン)、なつめの種で精神を落ち着かせる酸棗仁(サンソウニン)も、下痢を起こすことがあります。
下剤の主成分の大黄(ダイオウ)は、便秘で苦しむ方以外はなるべく控えたい生薬です。
動物性生薬の牡蛎(ボレイ・牡蠣の殻)、ロバの皮の阿膠(アキョウ)なども、消化しにくい生薬と言われています。
適量なら問題なく服用できる方も多いですが、
「服用して効果は実感できるけど、胃が重い、お腹が痛くなる」という場合はいったん服用を中止して、処方された医療機関に相談しましょう。
胃腸の負担になりやすい生薬が含まれる漢方薬
当帰芍薬散・桃核承気湯・桂枝茯苓丸・安中散 など
動悸や高血圧を引き起こす「麻黄」
麻黄(マオウ)には風邪薬にも使われるエフェドリンという成分が含まれています。
エフェドリンは交感神経を刺激して気管を広げる作用がありますが、過剰に摂取すると動悸や高血圧を引き起こします。
婦人病でよく使われる漢方で麻黄が含まれているものは少ないですが、風邪やアレルギーでよく使われる葛根湯・小青竜湯など有名な薬に含まれています。
高濃度のエフェドリンは覚せい剤として取り締まり対象になる劇薬です。
麻黄が含まれる漢方薬で動悸や高血圧症状が出たら、ただちに服用を中止して医療機関に相談しましょう。
麻黄は漢方薬とはいえ安全とは限らない、ということが理解しやすい生薬のひとつです。
適度に服用するなら問題ないことがほとんどなので、用法、用量を守って服用しましょう。
麻黄が含まれる漢方薬
葛根湯・五虎湯・五積散・小青竜湯・神秘湯・薏苡仁湯 など
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