流産をある程度防ぐ効果が期待できる反面、「命の選別に繋がりかねない」と批判を受けることがある着床前診断。
本来は流産につながる成長できないと見込まれる受精卵を振り分け、重篤な遺伝子疾患を防ぐために止む無く使用が許される、極めてセンシティブな検査です。
着床前診断を行う場合は体外受精の保険適用はされず、すべて自費になります(2025年現在)。
日本産婦人科学会へ申請して承認を得る必要があり、価格も高額です。事前に遺伝子カウンセリングが必要で、夫婦どちらも強く要望しなければ実現しない検査です。
ただ、海外では背の高さや糖尿病など慢性疾患の遺伝子を調べて選別する、文字通りの「命の選別」が行われるケースがあります。
しかし現在の遺伝子検査では、これらの身体的特徴を選別することができないことが明らかになりました。
着床前診断とは?日本ではとても厳しいルールがあります。
着床前診断(着床前遺伝学的検査、PGTとも呼ばれます)は、体外受精で得られた胚の遺伝子を検査し、重篤な遺伝子異常がないと診断された胚を移植する方法です。
染色体の数を調べ、染色体が少ない(モノソミー)、多すぎる(トリソミー)を判定する方法です。染色体に過不足があると、ごく一部を除き成長することができません。
日本では「2回以上、体外受精が成功しない、または習慣流産(反復流産)のご夫婦」、「染色体に転座など構造異常があるご夫婦」「医学的に重篤な単一遺伝性疾患がある」の3つの理由で審査を受けることができます。
審査希望者は遺伝子疾患などの患者さんもいますが、体外受精に成功しないカップルが申請するケースが多く見られます。
しかし、日本で着床前診断を受けるためにはいくつもハードルがあります。
・日本産婦人科学会の審査を通過する
・遺伝子カウンセリングを受ける
着床前診断でどこまで知ることができるのか、どんなリスクがあるのかを、遺伝子カウンセリングで丁寧に説明を受けます。
審査が殺到しているため、最低でも半年は必要と言われています。そして費用は2025年時点では、すべてのケースで全額自費です。
全ゲノム解析でも「選別」はできない
日本で行われるのは染色体の数を調べるだけで、染色体の内部の検査(ゲノム解析)は行いません。そのため、染色体異常の疾患以外は分かりません。(検査で性別は分かりますが、その結果は夫婦には公開されません)
しかし海外では全ゲノム解析を行い、背が高いとされる遺伝子の選別や、糖尿病リスクが高いと推測される胚の排除などが行われるケースがあります。
これは明らかに生命倫理に反した行為で、日本で認可されることはまずないですが、問題はそれだけではありません。
技術面においても全ゲノム解析は効果がないことが判明しました。
ゲノム解析には様々な手法がありますが、ある方法では最も良い評価の胚が、別の方法では最下位になることが分かりました。
大阪大・東京大・理化学研究所などの研究チームは「身長の高さ」「2型糖尿病の発症リスク」を予測するゲノム解析手法6種類を用いたコンピューター・シミュレーションを実施して、検査結果に一貫性がないことを証明しました。
検査の手法で異なる結果が出ることは、その検査に一貫性がない、これらの特徴は生まれた後の環境によるものなど、さまざまな原因が考えられます。
現時点では創作作品にあるような「デザイナーズベイビー」を選別することは不可能です。
遺伝子検査は「背が高い子がいい」などという邪な思いで手を出すようなものではありません。そのような考えは大金を悪徳医療に奪われるだけです。医療は病(この場合は不妊)に苦しむ人のもので、それ以上の領域に踏み込むのは控えましょう。
出生前診断は必ず指定された病院で行いましょう
これらの事例は現在のところ海外だけの話ですが、日本でも金を出せばどんな検査でも受けられる事例が出るおそれがあります。
自由診療を行う病院の中には倫理観がないところがあり、そのような医療機関が海外の検査会社と結託して全ゲノム解析を行う可能性は否定できません。
しかし、たとえルール違反の全ゲノム解析を行っても、その検査はいい加減で信頼に足りるものではありません。
どうしても遺伝子検査を受けたい場合は、着床前診断の認可がある病院で、遺伝カウンセリングがある環境で行うべきです。検査結果だけ受けても判断するためには遺伝カウンセリングは欠かせません。
そして着床前検査で分かることは、染色体の数だけです。判明するのは重篤な遺伝子疾患の一部だけで、分からないことのほうがはるかに多いのです。
日本産婦人科学会に認可された病院は、以下から検索できます。(「PGT―~」を選択)
日本産婦人科学会施設検索
参考サイト
メディカルトリビューン 容姿や病気予測「信頼性低い」 体外受精卵のゲノム解析―阪大・東大がシミュレーション〔時事メディカル〕
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