不妊の原因、子宮内膜症の原因(の一つ)が判明しました。新たな治療法の可能性も

妊活コラム


子宮内膜症とは、子宮以外の場所に子宮内膜(または、それに似た組織)ができる症状です。
生殖年齢の女性のうち約10%の方が発症する、比較的ありふれた症状です。
卵巣や卵管、子宮を支えるじん帯、子宮と直腸の間などに発生することが多いですが、腸や肺にできることもあります。
月経周期に合わせて子宮内膜症も増殖し、月経期には剥がれ落ちます。しかし剥がれた組織を排出する場所がなければ患部に溜まり、周囲の組織を癒着します。
そのため激しい月経痛や骨盤痛、不妊を引き起こすことがある、厄介な症状です。

子宮内膜症の原因は長い間分かりませんでしたが、2023年6月に菌の一種が原因であることが発表されました。

子宮内膜症の原因は口の中の常在菌「フソバクテリウム」

子宮内膜症は月経周期に合わせて増殖し、はがれ落ちます。
そのため子宮内膜症の治療はホルモン剤などを使い、女性ホルモンの分泌を一時的に止めることがあります。
女性ホルモンがなければ子宮内膜症の組織も育たないので、症状が緩和されます。

しかし、その間は妊活や不妊治療はできません。
治療が終わっても再発しやすく、長い間経過観察をする必要もあります。
ホルモン治療は子宮内膜症が増殖するメカニズムを利用したもので、原因を取り除くものではないためです。

子宮内膜症の原因は「フソバクテリウム バリウム」という菌の感染が原因であることが分かりました。

出典:名古屋大学 フソバクテリウム細菌感染は子宮内膜症の発症を誘導する

フソバクテリウムは口の中にいる常在菌のひとつの、ありふれた菌です。
歯周病の原因になる菌ですが、さまざまな病気の原因になることが分かっています。
大腸菌やビフィズス菌と同じ棍菌(こんきん)という種類で、酪酸という酸を吐き出します。
この酪酸には毒性があり、ネズミの腸に注入すると、難病の潰瘍性大腸炎を発症したことが確認されています。
子宮内膜はほぼ無菌ですが、子宮内膜症の方は子宮内にこの細菌がいることが多いこと、動物実験でこの菌が子宮内膜症を発症させることが実証できました。

原因のひとつが解明され、新たな治療法ができる可能性があります。



研究は始まったばかりで、まだ治療法は確立していません(2023年9月現在)

フソバクテリウムは細菌なので、抗生剤という特効薬が使えます。
これでついに子宮内膜症が根治できる!と喜びたくなりますが、残念ながら研究は始まったばかりです。2023年9月の時点では、まだ治療法は確立されていません。

ここで気を付けたいのは、「原因が特定された」ことが「新しい治療法が確立した」に直接結びつかないことです。
フソバクテリウムは潰瘍性大腸炎の原因のひとつと考えられていますが、抗菌薬を使っても患者全員が改善することはありません。
症状の改善、再発抑制が認められた報告もありますが、それでも全員ではないのです。

子宮内膜症の抗菌剤治療研究は始まったばかり。
フソバクテリウムは原因の一つなのは間違いないですが、他の原因が隠れている可能性は否定できません。
将来、抗菌剤などを使い治療できる可能性はありますが、今日、明日いきなり治療法はできないことは頭に入れておきましょう。
しかし、それでも病気の原因のひとつが特定できたのは大きな進歩で、新しい治療法ができる可能性が生まれたのは確かです。
今日、明日は無理でも将来、子宮内膜症を完治させ、再発に怯えなくなる日が来るかもしれません。

怪しい自費治療には要注意!当面は、ホルモン治療と手術で治療を

現在、子宮内膜症が原因で不妊治療を行う方は、ホルモン治療と手術が最適な医療です。
きちんと治療法が確立するまでは、抗生剤の勝手な使用は絶対に止めましょう。
近年は抗生剤に耐性がある細菌が生まれています。抗生剤が効かない細菌が生まれると、戦前の結核のような悲劇が生まれる可能性があり、非常に危険です。

不妊治療の病院では最先端の医学情報を入れ、最適なタイミングで自費治療を行います。たとえば、排卵障害でメトホルミンという糖尿病治療薬を使うと排卵が戻ることがありますが、保険適用されず長い間自費治療でした。
効果が実証され、現在は保険適用されています。
このように、きちんとした根拠のある治療法なら良いのですが、不誠実な病院では論拠に乏しい怪しい自費治療を勧められることがあります。
病院では自費治療をする場合、論拠になる情報を公開しています。
きちんと情報を読み込み、ある程度調べた上で判断しましょう。

現在のところ、子宮内膜症の治療はホルモン治療や手術であることに変わりはありません。
妊活を続けるなら、子宮内膜症のある患部だけ取り除き、卵巣を温存する方法もあります。ぜひ主治医と相談して、最適な治療法を選びましょう。

当面の治療法は変わりませんが、原因が分かったので将来的には第三の治療法が確立する可能性はあります。
最新情報が分かり次第、改めて紹介したいと思います。



参考サイト

MEDICAL TRIBUNE 子宮内膜症の原因はFusobacterium感染
名古屋大学 フソバクテリウム細菌感染は子宮内膜症の発症を誘導する
日本産科婦人科学会 子宮内膜症
ヤクルト中央研究所 菌の図鑑フソバクテリウム バリウム

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