体外受精は2022年4月から保険適用になりました。
それまでは全額自費負担で、資金がある人しか受けられなかった高度不妊治療の治療費が大幅に低下し、比較的受けやすい治療になりました。
しかし、自費オプションをいくつも付けると、それだけで何十万円~何百万円になりかねません。
受精卵や精子の凍結にも費用がかかり、管理費を毎年請求されます。
高度不妊治療は「自費治療のオプションをどれだけ加えるか」を把握しなければ、どれだけ予算があっても足りません。
保険適用の範囲はどこまでか、どこからが自費治療になるか、きちんと把握することが必要です。あれもこれも、と手を出さずに、エビデンス(科学的根拠)をもとに考慮しましょう。
体外受精は保険適用されました。しかし範囲が限られます
体外受精は、多くの工程を経なければなりません。
女性なら卵胞を育てる治療、採卵、移植の工程が必要です。男性なら精液採取、無精子症の場合は手術による採取が行われます。
厳重に管理した部屋で胚培養士が採取した卵子と精子を受精させ、胚盤胞になるまで7日間育てます。精子が動けない場合は、培養士が細い注射器で卵子に注入します(顕微授精)。
体の外で受精するだけで、生命が誕生し、育つ工程は自然妊娠と変わりません。
費用は病院により異なりますが、おおよその目安は以下になります。
・採卵周期(卵胞を育てる~採卵~受精~初期胚培養~胚盤胞培養~移植以外の胚盤胞の凍結保存まで)
約80,000~200,000円
・移植周期(移植~陽性判定まで)
約45,000~50,000円
この価格に薬剤費、管理料、再診料などが加算され、1回の採卵から移植までおおよそ10~30万円ほど必要です。
(金額は、採卵できた卵子の数、凍結する胚盤胞の数により大きく異なります)
しかし、この額を全額支払うわけではありません。日本には「高額療養費制度」という制度があります。
1ヶ月に高額治療を受けた場合、世帯主の所得に応じて一定額以下の額になる仕組みです。
ひと月の上限額(世帯ごと)は以下のとおりです。世帯ごとの限度額なので、ご夫婦で治療を受けていればさらに費用が抑えられます。
年収約370万円までの世帯は57,600円
年収約370万円~約770万円の世帯は、80,100円+(医療費-267,000)×1%
年収約770万円~約1,160万円の世帯は、167,400円+(医療費-558,000)×1%
年収約1,160万円以上の世帯は252,600円+(医療費-842,000)×1%
年収370万円までの世帯では、1ヶ月の治療費は57,600円に抑えられます。(自費治療は除く)
マイナ保険証にすれば自動的に高額医療費後の価格になります。従来型の保険証の方は病院に実費を払った上、ご自身の保険組合に還付請求をしましょう。(後日還付されます)
気を付けたいのは、これは「1ヶ月の請求上限」であり、1回の治療上限額ではありません。
月経周期に合わせて治療を行うため、月をまたぐ可能性があります。その場合は2倍の費用が必要になります。
保険診療になっても、体外受精は意外と高額なことを知っておきましょう。
これらの医療費は医療費控除で一部還付されます。(1年に10万円以上の場合)
医療費控除は税務署に申請します。
「自費治療のオプション」は客観的に判断を
体外受精など、高度不妊治療は卵胞を育てる~採卵~受精と成育~移植までの必要最低限の工程のみ保険適用されます。
妊娠率を上げる補助的治療は、2024年9月の時点ではほぼ自費治療になります。
補助治療は数多くあり、価格も数万円以上するものばかりです。あれもこれもと付け加えると大変な高額になりかねません。
補助的治療も内容はさまざまで、治療実績があるもの、始まったばかりで実績がほとんどないものなど玉石混交です。
その中でも選択のカギになるものの一つは、「先進医療」に入っているかどうかです。
先進医療とは、期待される効果が高い医療技術の中で、厚生労働大臣の許可を得て保険診療と併用が認められた治療法・治療技術です。公的医療保険の適用外の治療ですが、治療実績を積み、効果が実証されると、やがて保険治療に認定されます。
特に、治療実績が多くはっきりと効果が確認されている先進医療は、加えたほうが良い場合があります。
まだ始まったばかりの治療でエビデンス(科学的根拠)が揃っていない治療は、効果が未知数であることは覚悟すべきでしょう。
エビデンスがない治療に何十万円も高額な費用を払い、後で効果がなかったことが明らかになるリスクがあります。
補助治療は予算を大きく超えない範囲で、取捨選択をすることが求められます。
保険治療が適用されなかった時代の高度不妊治療は、1回の採卵から移植まで数十万円~100万円ほどの費用が発生しました。
費用は、この額を基準に考えると良いと思います。
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