妊活が突然の妊娠に比べて良い点はいくつもあります。特に「妊娠トラブルの原因を妊娠前から改善できる」ことは最大の利点です。
風疹・麻疹抗体や性感染症のチェック、ワクチン接種などは妊娠する前にできるのが理想ですが、妊活中は最適なタイミングです。特にMRワクチン(風疹・麻疹ワクチン)は妊娠すると接種できません。
中でも歯科でむし歯&歯周病の検診は、ぜひ妊活中に受けたい検診です。併せて、ていねいな口腔ケアの習慣を今から身に付けましょう。
近年、妊婦が歯周病になると早産や低体重児出産の発生率を上げる可能性が指摘されています。歯周病はお母さんだけでなく、赤ちゃんにも悪影響を与えます。
歯周病は高齢者の病気と考えがちですが、実は20代、30代から自覚なく症状が始まっています。厚生労働省が行った2016年の歯科疾患実態調査では35~44歳で歯周ポケットが4mm以上の方、歯肉出血がある方は4割以上いることが分かっています。
これらは歯周病の始まりとされますが、丁寧な口腔ケアと歯の定期検診で症状を大きく抑えることができます。
原因は女性ホルモン!妊娠中に歯周病が悪化しやすい理由
なぜ妊娠中に歯周病が悪化しやすいのでしょうか。原因はいくつかありますが、女性ホルモンの増加が主な原因です。
女性ホルモンは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類があります。月経後から排卵まではエストロゲンが優位になり、排卵後はプロゲステロンが優位になります。
妊娠すると妊娠を維持するために、エストロゲンやプロゲステロンが10倍から30倍に増えます。実はこのエストロゲンが増えると、口の中にいる歯周病原因菌が増えやすくなります。
さらに、プロゲステロンは月経痛の原因物質でも有名なプロスタグランジンを刺激します。プロスタグランジンは炎症物質で、歯肉の炎症を促してしまいます。
プロゲステロンの炎症刺激にエストロゲンの原因菌増幅作用が合わさり、妊娠中は妊娠性歯肉炎が発症しやすくなります。歯肉炎は歯周病の初期症状で、放置すると本格的な歯周病まで悪化します。
さらに、妊娠初期から中期までは「つわり」に苦しめられる時期です。
つわりの症状は個人差がありますが、口の中に歯ブラシを入れるだけで吐き気を催すケースは珍しくありません。ひどい場合は歯磨きすらままならないこともあります。
つわりの最中は限られた食材しか食べられなくなる、逆に食べないと気持ちが悪くなる「食べづわり」など、さまざまな症状が起こります。食べづわりになると間食が増え、歯磨きを何度してもプラークが除去し切れなくなることがあります。
妊娠中に女性ホルモンが増えるのは自然なことです。女性ホルモンが増える=妊娠中は歯周病リスクが上がるもの、ということは覚えておきましょう。
早産リスクが7倍に?歯周病は早産の発症率を上げる要因です。
現代の日本では早産で生まれても赤ちゃんを救えるケースは増えていますが、早産児は心身にさまざまな病気のリスクを抱えて生きるリスクが上がります。正周期(37週~41週未満)に出産することが、赤ちゃんにとってベストの状態です。
しかし、歯周病は子宮の収縮を促し、早産のリスクを上げてしまいます。歯周病ではない妊婦さんに比べて7倍も早産になりやすいという統計もあります。
出典:日本臨床歯周病学会 患者向けリーフレット「歯周病と妊娠」 https://www.jacp.net/pdf/leaflet/leaflet_04.pdf
なぜ口の中の病気である歯周病が早産の引き金になるのでしょうか。歯周病原因菌や毒素が血流に乗り、子宮まで届いてしまうのが原因とされています。近年では「歯周病は全身疾患」であることが明らかになっています。
血流に乗るのは歯周病菌だけではありません。炎症物質のプロスタグランジンも血流に入り、全身に拡散されます。プロスタグランジンが子宮に届くと子宮を収縮させ、早産のきっかけになることがあります。
日本臨床歯周病学会誌でも歯周病がある妊婦は早産や低体重児出産のリスクが高まるとされ、妊娠中の口腔管理を呼び掛けています。
ぜひ妊活中に歯科検診を受けましょう。
妊娠中でも歯科に通うことはできますが、できるだけ妊活中に歯科検診を受けましょう。
歯科といえば歯が痛くなってから行くイメージがありますが、トラブルがなくても定期的に診てもらうとむし歯や歯周病の悪化を防げます。来院理由を尋ねられたら「妊活中なので一度、口の中を診てほしい」で伝わります。
妊活中に自分に合う歯科を見つけることで、妊娠中も安心して口腔メンテナンスと治療が受けられるメリットもあります。
妊娠前に歯科検診を受けたほうが良いのは、事前に口腔内のリスクを把握することで歯周病に対処しやすくするためです。歯の磨き方、デンタルフロスの使い方など口腔ケアも学べるので、歯周病の悪化を減らすこともできます。ぜひ正しい口腔ケアを習慣化させましょう。
もし、むし歯が見つかれば、できるだけ妊活中に治療を終わらせることが望ましいでしょう。妊娠すると(周期によりますが)歯科医がレントゲン撮影に支障が出ると判断することがあります。(歯のレントゲン撮影は顔だけで、胎児に被害が出るとは考えにくく、原則問題ないとされています)
妊娠中はトラブルが起きやすいので、定期的に歯科に通うことが難しくなることもあります。そのリスクも考慮すると、妊活中に一度は歯科で診てもらうと安心でしょう。
参考サイト
滝川雅之「妊婦の歯周病と早産・低体重児出産との関連性―妊娠期における歯周治療のポイント―」 日本臨床歯周病学会会誌 JJACP, 36巻2号, 2018, p.33–39
ままのて 【産婦人科医監修】早産とは?早産の原因と兆候、予防法、赤ちゃんのリスクについて
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