不妊治療を行ってもがんリスクはほとんど上がらないことが判明

不妊治療では女性ホルモン剤を投与します。こんなにホルモン剤を使って将来のがんリスクは上がらないのか?と不安になる方もいるでしょう。
しかし、オーストラリアの大規模な調査で、不妊治療を受けてもがん(浸潤がん)のリスクはほとんど上がらないことが分かりました。中でも子宮頸がんはリスク低下が見られました。

ただ、中には僅かながらリスクが上がるがんもあります。どの程度リスクがあるのか、不妊治療と天秤にかけて考えるきっかけになればと思います。

■概要
オーストラリアで約42万人を調査した研究では、不妊治療後の浸潤がん全体の発症率は、体外受精や人工授精では一般女性とほぼ同程度で、クロミフェン使用者ではわずかに高い結果でした。一部のがんでは発症率の上昇が見られましたが、実際の増加人数は少なく、不妊治療が原因とは限りません。発症率の倍率だけでなく、実際の人数や自身の健康状態も踏まえ、治療のメリットとリスクを理解して判断することが大切です。


約42万人の大規模研究で分かった、不妊治療後のがん発症率

「生殖補助を含む不妊治療を受けた女性におけるがん罹患率」(原文:Cancer Incidence in Women After Medically Assisted Reproduction)という研究が公開されました。

オーストラリアで1991〜2018年に不妊治療を受けた18〜55歳の女性を調査し、その後のがん発症状況を調べました。調査対象は417,984人で、治療後のがんの発症状況を長期間にわたって調べた大規模な研究です。
対象となったのは、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療、排卵を促す薬を使用した人工授精、排卵誘発剤のクロミフェンを使用した女性です。不妊治療を受けた女性のがん発症率を、同じ年代・地域・時期の女性全体のがん発症率と比較したものです。
体外受精などの生殖補助医療や、排卵を促す薬を使用した人工授精を受けた女性では、浸潤がん全体の発症率が一般女性とほぼ同程度でした。
「浸潤がん」とは、がん細胞が発生した場所から周囲の組織に広がり始めたがんのことです。

しかし、若干リスクが上がった治療もあります。排卵誘発剤のクロミフェンを使用した女性では、浸潤がん全体の発症率が一般女性より約4%高い結果でした。
がんの種類別に見ると、子宮がんや皮膚がんの一種の悪性黒色腫では、一般女性より発症率が高い傾向が見られました。また、体外受精などを受けた女性では卵巣がんや上皮内乳がん(がん細胞が乳管などの内部にとどまっている状態のがん)の発症率も高くなっていました。周囲の組織に広がる浸潤性乳がんについては、発症率の上昇は確認されませんでした。

ただし、発症率が高かった浸潤がんでも、実際に増加した人数は少なかったことが分かっています。10万人を1年間追跡した場合の増加分は最大約6.5人でした。

増加/減少したがんの種類、治療しない女性に比べた増加率/低下率は以下のとおりです。
子宮がん 約1.23〜1.83倍
卵巣がん 約1.18〜1.23倍
悪性黒色腫(皮膚がんの一種) 約1.07〜1.15倍
乳がん(上皮内がん) 約1.24倍(ART群のみ)

逆に、以下のがん発症は治療を行わない女性より低くなりました。
子宮頸がん 約0.52〜0.61倍
肺がんなど 約0.62〜0.70倍

出典:Vajdic CM, et al.「Cancer Incidence in Women After Medically Assisted Reproduction」JAMA Network Open. 2026;9(3):e261332.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41805952/

発症率の数字が多いように見えますが…発症率と発症人数の違い

「子宮がん発症率が約1.23~1.83倍」と聞くと驚くかもしれません。しかし、気を付けたいのは元の発症率です。
もともと1,000人に1人しか発症しないがんの場合、1.83倍になっても1,000人に1.83人になります。多くのがんは年齢が若いほど発症率も下がります(※子宮頸がんは性感染するウイルスが原因のため、若い世代の発症率が上がります)

発症率の数字に注意

発症率が高かった浸潤がんでも、一般女性と比較した増加分は、10万人を1年間追跡した場合に最大約6.5人でした。
この人数を多いと感じるか、少ないと感じるかはご自身の考え方に左右されると思います。

原因は不妊治療とは限らない

子宮内膜症の方は、卵巣がんの発症リスクが上がります。子宮内膜症の方は不妊治療を行うことが珍しくないため、卵巣がん発症リスク上昇の原因のひとつと考えられます。
不妊治療を行ったから発症したわけでなく、もともと発症リスクが高い方が不妊治療を行うことがあるため、発症リスクが上がった可能性もあります。

リスクとメリットを踏まえ、ご自身の考え方に応じて判断を

浸潤がんは上皮内がんに比べて治療が難しく、治療に長い時間が必要になることがあります。近年はがん治療の進歩で救命できる確率は上がっていますが、たとえ命を落とさなくても治療を続けるのは大きな負担になります。
たとえわずかな上昇率であっても、このようなリスクを取れない、と思うのも一つの考え方です。可能性が低くても自身に発症したら…という恐れは否定できるものではありません。特に、身近に乳がんや子宮がん、卵巣がんなどで苦しんだ方がいれば、不安になるのも自然です。

逆に、これくらいのリスクなら問題ないという考え方もあるでしょう。定期的に乳がんや子宮頸がんの検診を受け、不正出血や腹痛などがあればすぐに婦人科を受診するなど、早期発見を心がける考え方もあります。
不妊治療に限らず、医療行為はデメリットを減らすことはできてもゼロにはできません。メリットがリスクを上回ると判断し、納得した上で治療を受けましょう。



参考サイト

Cancer Incidence in Women After Medically Assisted Reproduction

Medical Tribune「不妊治療経験者のがん罹患率は一般女性とほぼ同程度」

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